実業界は金儲けだけするところではない
銀行の頭取が次々と経済スキャンダルの渦中にまきこまれ、このところイメージのあまりよくない住友グループだが、戦前の住友財閥のトップには、歴代、人物が揃っていた。初代総理人広瀬宰平は、住友の事業精神について
「一意殖産興業に身を委ねて、数千万の人々と利益を共に分かち合う」
と宣言し、二代目の伊庭貞剛の方針は
「住友の事業は、住友自身を利すると共に国家を利し、且つ社会を利する底の事業」
であった。三代目の鈴木馬左也は総理事就任にあたり
「自分は正義公道を踏んで、皆と国家百年の仕事をなす考えである」
と決意表明し、四代目の中田錦吉は
「住友の事業は、単なる営利目的の修羅場ではなく、国家社会に貢献するもの」
五代目の湯川寛吉は
「住友は営利会社であるが、同時に国家社会のためにつくすことが住友の伝統」
と訓示することを忘れなかったという。(「住友グループ広報委員会:総理事と呼ばれた人」より引用)
しかるに、経済同友会の北城恪太郎代表幹事(日本IBM会長)の、この発言はどうだ? 以下は経済同友会のサイトにある、記者会見発言要旨(未定稿)からの引用:
Q: 日中首脳会談が行われ、久し振りに両国の首脳が話し合ったが、はかばかしい進展が見られなかったようだ。どうご覧になっているか。北城:話し合いが行われたということは、色々な背景があったにせよ良かったのではないか。できれば、相互に訪問できて、それぞれの国で会談ができれば更に好ましいと思う。
今回の会談の中で、日中の協力が重要であること、経済を含めて日中の協力関係が進展することの重要性は認識されたと思う。その一方で、靖国問題に関して中国側から批判が出たということだが、(靖国問題は)日本の国内問題であると同時に、中国には、日本の首相がA級戦犯を合祀している靖国神社に参拝することを快く思っていないという国民感情がある。最近のインターネットの普及もあって、中国政府が一方的に国民の意識を制御できる状況でもない。小泉総理が靖国神社に参拝することで、日本に対する否定的な見方、ひいては日系企業の活動にも悪い影響が出るということが懸念される。経済界の意見の大勢だと思うが、総理に今のような形で靖国神社に参拝することは控えて頂いた方がいいと思う。
経済同友会といえば、9月にも前代表幹事の小林陽太郎(富士ゼロックス会長)が首相の靖国参拝批判を行っていたが、IBMといいゼロックスといい、外資系の多国籍企業という点が共通する。かつてチリのアジェンデ政権がクーデターでピノチェト将軍に倒されたときにも、多国籍企業ITTの関与が取り沙汰されたが、多国籍企業の経営者という人種には、何よりも企業の利益を優先するという姿勢が必要なのだろう。
そういえば、「経済同友会の概要」というページに、「経済同友会とは」と題した文章がある。その中核部分は以下の通り。
社団法人経済同友会は、終戦直後の昭和21年、日本経済の堅実な再建のため、当時の新進気鋭の中堅企業人有志83名が結集して誕生しました。一貫してより良い経済社会の実現、国民生活の充実のための諸課題に率先して取り組んでいます。経済同友会は、企業経営者が個人として参加し、自由社会における経済社会の主体は経営者であるという自覚と連帯の下に、一企業や特定業種の利害を超えた幅広い先見的な視野から、変転きわまりない国内外の経済社会の諸問題について考え、議論していくところに最大の特色があります。
なるほど。
経済同友会の代表幹事の思考回路は、外交問題をも「より良い経済社会の実現」を目標として「経済社会の諸問題」として考えることになっているらしい。そういえば、かつてレーニンは「資本家は自分の首を絞める縄でも売りわたす」と嘲笑したが、北城・小林両氏も「カネのためならどんな難題を吹っかけても叩頭する連中」なのだろう。江沢民の嘲りが聞こえるようだ。
これに対する、自民党の安倍晋三幹事長代理の苦言はもっともだと思う。(日本経済新聞社の記事より)
自民・安倍氏、同友会代表の靖国発言批判自民党の安倍晋三幹事長代理は27日、都内での講演で「(企業が)いかに売り上げを増やそうか考えるのは当然だが、国のために殉じた人たちを引き換えにしてよいのか」と述べた。小泉純一郎首相の靖国参拝中止を希望した経済同友会の北城恪太郎代表幹事を批判したとみられる。
ふたたび住友のトップの名語録に戻る。六代目の総理事、小倉正恒は
「実業界は金儲けだけするところではない。まず立派な人間になることが大切だ。そうでなければ大実業家にはなれない。」
と説いたし、先に上げた伊庭貞剛はまた、
「君子財を愛す、これを取るに道有り」
を座右の銘にしていた。これは「立派な人物は、財を尊重して、手に入れるにも道に沿って行うという意味であるが、会社・企業もまた金もうけするためにつくられたものであって、決してこれを恥じてはいけない、その手段が人の道にはずれないことが肝要である」という意味だ。
しかるに、北城氏や小林氏は手段が人の道にはずれようが、とにかく金もうけだ、と考えているらしい。経済同友会の代表幹事は立派な人間でなくても勤まるポストなのだ。そんなこんなで、しばらくはIBM(およびXerox)という社名・ブランドは見たくない気分だ。というわけで、さらば OS/2 (謎)
[補足 (平成16年年12月13日)]
12月9日付で日本IBMから
【お知らせ】Lenovo社とのPC事業の戦略的提携つきまして【IBM PC Tips】
という題名のDMをもらった。周知の通り、米IBM本体のPC事業が中共の聯想集団有限公司 (Lenovo)へ売却されることになったが、北城会長の発言はこれの伏線だったのか? という疑念がふつふつと湧いてくる。小生は OS/2 のサポーターだったがIBM PCそのものは個人で購入したことはない(職場で貸与されたことはあったが)。しかし、IBM PCのユーザには、blogで「IBMのユーザを拒否する」とまで書く人が出現している。私もかなりの個人情報を預けているので、ちと不安である。日本IBMのパーソナルソフトウェア事業部の資産は、Lenovoに行くのかIBMに残るのか、さてどちらだろう? かなり気になる‥‥
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