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2005.01.27

「トンデモな」日本酒本の批判、第8回

 これで8回目の、蝶谷初男氏の著書『うまい日本酒に会いたい! そのために知っておきたい100問100答』(ポプラ社、ISBN: 4-591-08389-6、2004年12月発行)の「トンデモ記述」の摘発である。今日でようやく、進捗率が2割に到達した(苦笑) 先は長い‥‥

 今回は100問100答のうち16問め~20問めの記述が対象で、テーマは「麹」になる。

 ついでに話しますと、この他、麹菌には黒、白、赤などの色(種類)があり、それぞれの特色に合わせて使い分けられています。ちなみに、黒は泡盛、白は焼酎、赤は紹興酒などに使われる麹です
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.65)

 赤こうじ(紅こうじ)は厳密には麹菌(アスペルギルス属)ではない。モナスカス属に分類される、別のカビ類である。また、紹興酒には赤こうじではなく、ケカビ(リゾープス属)が使われる。赤こうじを使う中国の酒は、紅酒や露酒だ。

 そのため、酒蔵では蔵内に麹専用の部屋を設け、そこで麹を造ることになります。  それを「麹室」と呼んでいます。(中略)もちろん、コンピュータによる自動制御で、厳重に温度と湿度をコントロールしています。ただ、コンピュータでの管理は最新式のもので、単にエアコンを使った調整、また直接外気を取り入れて調整している室がまだ多いでしょう。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.68)

 少し前までは、風により雑菌が流入するとの理由でエアコンは忌避され、温調には電熱線(ニクロム線)を張り巡らせるのが一般的だった。今でも、エアコンよりも電熱線やファンヒーターを使っている室のほうがまだ多いだろう。

【用語解説】
◇麹室(こうじむろ)
麹を造る専用の部屋で、高温(28~30度)多湿(60%以下)となっている。(以下省略)
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.69)

 一般に、多湿とは湿度80%以上を指すのだが‥‥ 実際には、麹室は「蒸米を乾かしながら麹を育てる」部屋であるため、麹の製造中はやや乾燥気味(湿度60%以下)に推移させるのが一般的だ。

【麹は、前項でも話したように蒸したお米に麹菌を振りかけて造ります。お酒の種類によって振り掛ける麹菌の量は違いますが、大吟醸酒では蒸したお米100kgあたり5g程度です
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.70)

 前回も指摘したが、蝶谷氏が明示的あるいは黙示的に書く「ふつう」「一般的」は、時おり、ある酒蔵場でのスタンダードであり業界一般では必ずしも多数派ではないことがある。「大吟醸酒では蒸したお米100kgあたり5g程度」という記述も、これに該当する。同じ大吟醸酒でも、振られる麹菌の量は、杜氏の流派や酒造場の目標とする酒質により大きく異なり、一般論で語ることは困難だ。広島県など濃醇な西日本型であれば30g以上振られることもあるし、静岡県の淡麗少酸型の留麹では1gにも満たないこともある。

【用語解説】
◇破精(はぜ)
麹菌の菌糸がお米に食い込んでいる状態を指す。製麹の途中で、お米のところどころに出てくる白い斑点を破精と呼んでいる。麹菌の酵素がお米のデンプンをブドウ糖に変えている証でもあり、そうした状態を「破精込み具合」という。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.79)

 破精はデンプン分解酵素(アミラーゼ)が生産されている証であり、「破精込み具合」はデンプンをブドウ糖に変える力(酵素の力価)を測る指標である。麹菌のアミラーゼは菌糸の最先端部の少し内側で生産されるため、破精込み(=菌糸が米の内部に食い込んだ部分)が多いほどアミラーゼが大量に生産される。つまり、破精込みが多いほどデンプンを分解する力が強くなる。

 ちなみに、アミラーゼが分解するデンプンは、麹米よりも蒸米に含まれるほうが圧倒的に多い。なにせ、お酒の仕込みには、麹米の4倍ほどの蒸米が投入されるのだから。

 うーん、掘れば掘るほど‥‥ ゴミの山。

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「トンデモな」日本酒本の批判、気がつけば7回目

 くどいようだが、今日もまた蝶谷初男氏の著書『うまい日本酒に会いたい! そのために知っておきたい100問100答』(ポプラ社、ISBN: 4-591-08389-6、2004年12月発行)の「トンデモ記述」の紹介である。気がつけばもう7回目である。しかるに、今回でまだ記述の15%しか到達していない。どこまで続くぬかるみぞ‥‥、の気分である(苦笑)

 ところで、個人的に多大な示唆をいただいている鮭野夢造さんは、「辛口批評・バックナンバー」のページで蝶谷氏の前著「決定版・日本酒がわかる本」を評して「他の酒関係の書物に書かれていることを丸写しにした部分はさほど間違えがないので、初心者向けに優れた本だと勘違いされている方が多い。しかしながら、著者が主観で述べた(と思われる点)は致命的なミス(というより、頭の悪さをさらけ出している)が多数存在する。」と指摘している。

 たしかに、今回は100問100答のうち11問め以降の記述が対象となるが、ようやくマトモな記述が増え、間違いのない Q & A も出てきた。これは鮭野さんの指摘通り、マトモな文献からの丸写しの記述が増えてきたということだろう。最初は頑張ってオリジナリティを発揮した結果、トンデモな記述が多かったのが、だんだんと手抜きになって丸写しに頼るようになってきた、ということなのだろうか。

 というわけで、例によって『うまい日本酒に会いたい!』の記述を引用し、それに批判を加えていきたい。今回は Q.11~Q.15 が対象だ。

 お酒造りには現在、縦(竪)型精米機という精米機が使われていますが、お米の不要部分を削っていくロール(砥石)が縦に取り付けられていることからその名前があります。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.53)

 精米機で世界のトップシェアを誇るサタケ(旧・佐竹製作所)の佐竹利市が考案した竪型精米機は、砥石(金剛ロール)を縦軸に(垂線を軸に)回転させて米の外周を削るものである。「砥石を縦に取り付けた」では、読者は見当がつかないのではないか。

 お米を精米することを別名、「精白」ともいいます。読んで字の如く、お米の不要部分を削っていくに従いお米は徐々に白くなってくるため、その様を見てのことです。  現場では通常、どちらの言葉も用いられていますが、精白といった場合どちらかというと“お酒造りに対する思い”が感じられ、感情を伴って聞こえます
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.55)

 考えすぎだよ。(← 日垣隆ふう 笑)
 そんな感情移入をするから、「精米歩合」と「精白歩合」の高低を混同するんだよなぁ、蝶谷氏は。小学校レベルの算数ができない理由は、ここにあるのかしらん。(詳細は後述)

 食料米の場合は、デンプン含有量も少ない上に米粒のあちこちに散らばっているため、どこまで削ってもデンプンだけというわけにはいかず、よって質の高いお酒にはなりにくいのです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.56)

 どうしてまぁ、こんなウソを次々と書けるのか? まず、食料米のデンプンは「米粒のあちこちに散らばっている」わけではない。米の胚乳の中心部はデンプン貯蔵細胞といって、品種によらずデンプンが集積されている部分である。「どこまで削ってもデンプンだけというわけにはいかず」は噴飯ものの記述である。誰に聞いたのか、あるいはまた脳内妄想なのか、小一時間ほど‥‥ (以下省略)

 ちなみに、国税庁醸造試験所(現 独立行政法人 酒類総合研究所)では食料米の日本晴を使って大吟醸の仕込みをくり返し行った結果、「50%程度まで精米すれば、食料米でも酒造好適米に匹敵する酒を造ることは可能」と結論づけている。とはいえ、同じ研究グループが「日本晴と比較すると、山田錦のほうが(価格以外の)いろんな面で優れている」とも言っているのも事実であるが。

 精米歩合はお酒の種類(後述)によって決められています。数値が低ければ低いほど、精米歩合は“高い”、反対に数値が高ければ高いほど精米歩合は“低い”ので、その点ご注意ください。当然ながら、精米歩合の高いものほど良いお酒となります。(『うまい日本酒に会いたい!』 p.56)

 ここは誤用の流布である。蝶谷氏と同じ意味で精米歩合の「高い・低い」を喋っている人は、お酒の業界にもかなりいる。しかし、それはあくまで誤用である。算数で「歩合(割合)が高い」のは数値が高いほうで、逆の「歩合が低い」のは数値が低いほうに決まっている。これは小学校レベルの基本である。日本語の基本と言ってもよい。これに反する表現は、例外なく誤用なのである。

 ちなみに、日本醸造協会で頒布している酒造教本など、記述の正確な本では、精米歩合の数値が低いほど精米歩合が「低い」、数値が高いほど精米歩合が「高い」と表現している。蝶谷氏の説くところの逆である。しかし、正確な表現を用いた場合、精米歩合と出来上がる酒の質とは逆になる。この混乱を防ぐためもあって、残った米の割合(歩合)を表現する精米歩合ではなく、削った米の割合を表現する精白歩合を使って表現することが多いのである。精白歩合で語れば、「高精白であるほど酒質もよくなる」「低精白の酒はよくない」、と直截的に理解しやすい表現になる。

 蔵に行く機会があり、そこで精米歩合の説明を受けたら、“それは真精米歩合ですか?”と、一度お聞きになってみては如何でしょう。その蔵の熱意を見るひとつの方法です(ただし、さり気なく聞いてください)。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.61)

 きっと蝶谷氏は行く先々で「嫌味な客だな」と思われていることだろう。
 同じ事を聞くにしても、“重量精米歩合ですか?”と聞いたほうが、角がたたなくていいのでは。真精米歩合で計測している蔵なら「よくぞ聞いてくれました」とばかりに真精米歩合の説明を得々としてくれるだろうし、そうでなければ「はぁ、そうです」とさり気なく受け流すだろう。

 よって、精米が終わったお米は袋に入れて倉庫の中で十分に冷ますことになります。(中略)お米を冷ますことを「放冷」というのですが、放冷期間が終わりお米が落ち着いてくると、いよいよ本格的なお酒造りの工程へと作業が進んでいきます。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.63)

 たしかに熱をもった物質を冷ますことを一般的には「放冷」というが、酒造においては「放冷」といえば第一に蒸した米を冷ますことを指し、精米後の米を冷ますことは「枯らし(枯らす)」と表現するのが通例だ。

 普通酒用などのお米は機械で、吟醸酒用のお米は10kgぐらいずつ小分けにし、水の流水圧を利用して手作業で丁寧に洗います。この時、水温はだいたい5度前後という冷たさです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.63)

 蝶谷氏が明示的あるいは黙示的に書く「ふつう」「一般的」は、時おり、「菊姫」の菊姫合資株式会社でのスタンダードであって業界一般では少数派のケースがあるので注意が必要だ。たぶん、この記述もそう読むべきだろう。

 業界一般では、洗米および浸漬時の推奨水温は10℃~15℃である。また、洗米時に使用する水は重量比で米の10倍~100倍と大量であり温調コストが馬鹿にならないので、地下水を使用する場合、たいていの蔵では汲み上げ温度のままで使っている。西日本や東海地方では大吟醸を仕込む寒い時期でも水温が10℃を超えることは珍しくない。水温がこれより低いと、米との温度差が大きくなって米が破砕しやすくなり、また吸水時間が延びるなどの問題がある。しかし、気候によりどうしても低温にならざるを得ないケースもある。

 水を吸わせる作業を「浸漬」と呼びます。(中略)当然ながら、精米歩合の高いお米は水分の吸収も早く、また量も多くなるため、秒単位での浸漬作業が必要となります。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.63)

 なぜ「当然ながら」なのだろう? (イケズな質問‥‥ 笑)

 吟醸酒などは「甑」という、大きな釜を使って大量のお米を蒸すのですが、一般的には自動蒸米機という機械が使われています。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.63)

 「甑」は釜ではない。釜の上に据える「」だ。また、一般的に使われている、米を大量に蒸すための機械はふつう「連続蒸米機」という。「自動連続蒸米機」や「連続自動蒸米機」と名づけられた機種もあるが、たんに「自動蒸米機」と記述されることは稀である。


 ‥‥まだまだ続く(笑)

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2005.01.21

「立て板に水」なトンデモ記述

 今日も蝶谷初男氏の著書『うまい日本酒に会いたい! そのために知っておきたい100問100答』(ポプラ社、ISBN: 4-591-08389-6、2004年12月発行)の「トンデモ記述」の紹介である。今回は「水」に関する記述部分を対象とする。以下、引用部は『うまい日本酒に会いたい!』の記述である(太字は引用者による強調)。

 つまり、お酒造りの中で最も重要な役割を担う麹菌と酵母をしっかりと育てることが、美味しいお酒造りの鍵を握るわけですが、彼らの栄養となる成分は主にお水から摂取することになるのです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.31)

 たしかに、酵母が増殖する際に必要となる栄養分は主に水から摂取している。しかし、麹菌は違う。麹菌の主たる栄養源は蒸米に由来する成分である。

 しかし、高度経済成長の時代を迎え、灘の地もごたぶんにもれず宅地開発や高速道路の建設が進み、少しずつ宮水の水質も変化するようになってしまいました。そこに、追い打ちをかけるように阪神大震災(1995年)が発生し、宮水は壊滅的な打撃を受けたのです。

 現在、宮水のほとんどが使用不能となっており、使われていないのが現状です。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.41)

 この件は既にこのブログの12月25日の記事にも書いたが、誇張が過ぎる。使い続けている蔵は現存する。ただし、取水制限が厳しいため、「全量を宮水で醸す」蔵が減っているのは事実ではあるのだが‥‥

 もっとも、宮水が本来の性質を維持していた時代でも、全工程すべてに渡って使っていたわけではありません。宮水は硬水であるため、ほとんどが酵母を培養するときと醪の仕込みに使われただけなのです。その他、お米を洗ったり、お米に水を含ませたり、あるいはできたお酒を希釈するときには使われていませんでした
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.41)

 この部分も正確ではない。伊勢神宮で毎朝夕すべての神々に供される常典御饌(じょうてんみけ)の神酒として使われる「白鷹」は、今でも割水(お酒を水で希釈すること)にまで宮水を使い続けている。もちろん、仕込みもすべて宮水だ。

Q10. お酒を造るとき、水道水は使わないのですか?

A10. 基本的にはまったく使われていません。Q8 でも話したように、酒造用水は水道水の基準値以上に厳しい基準が設定されています。また、使用目的が異なっているため水道水は使えないのです。よって、酒蔵では水道水をそのまま使うことはまずありません。どうしても使わなければならない事情が生じた場合は、成分調整をして使うことになります。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.43)

 私は蝶谷氏に心から同情する。あぁ、彼はあの「磯自慢」を知らないのだ‥‥ と思いきや、巻末の「お薦めするお酒」に「磯自慢」がしっかり掲載されている。判ってんのかねぇ、この人? 「磯自慢」の仕込水は全量が水道水だというのに‥‥ まぁ、カルキ(塩素)抜きはしているようですが。

 もっとも、蔵人さん達が洗面や食事のときに手を洗ったりする場合には水道水が使われていて、これは一般家庭と変わりありません。中には蔵人さん達が入るお風呂に仕込み水を使っている蔵もありますが、一種の洒落といえるでしょう
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.45)

 水道料金を支払わなくて済むからだろう。豊富に水が湧いて、酒造用だけでは使い切れない蔵では、洗面や食事のときに手を洗ったりする場合にも仕込み水を使うことがよくある。コストダウンは酒蔵にとっても、重要な課題なのだから。

 これでようやく、100問100答の10問目まで到達した。まだ全体の1割しか見ていないのにこの体たらく。前途は多難だ‥‥ いつ終わるのやら。って、評者の遅筆が諸悪の根源だな、きっと(笑)

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2005.01.11

酒米のトンデモ解説

 今日もまた、蝶谷初男氏の著書『うまい日本酒に会いたい! そのために知っておきたい100問100答』(ポプラ社、ISBN: 4-591-08389-6、2004年12月発行)の「トンデモ記述」の摘発である。まだまだ続く予定なので飽きた方は当分、このブログを避けてください(マジ)

 今回は日本酒の原料である「米」に関する記述を集中的に検証する。以下の引用部は『うまい日本酒に会いたい!』の記述である。

 心白とは、デンプンの塊のこと。酒造好適米ひと粒ひと粒の中心にまとまって存在しているため、白く見えます。食料米にはハッキリとした心白はありません。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.15)

 米粒の中心部にある、円形または楕円形の白色不透明な部分を心白という。たしかに心白部分はデンプンの塊だが、それが白く見える理由は「まとまって存在しているため」ではない。心白部はデンプンの集積が少なく、デンプン粒同士の間の空隙が多く、この空隙が光の屈折や乱反射をもたらすために白色不透明に見えるのである。心白部は米の胚乳の一部であり、心白以外の胚乳部もデンプンの塊であるが、こちらは通常、角張ったデンプン粒が隙間なく詰まっており、見た目は透明になる。

 酒造好適米の一覧を次ページに表にしたのでご覧下さい。以前に比べると50品種ほど増え、83品種が登録されています。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.17)

 とあるのでその表を見ると、出典は「* 農林水産省・総合食料局・食糧部・消費流通課・農産物検査班 / 平成14年産米醸造用玄米」とある。あらためて本の奥付を見ると「2004年12月3日 第1刷発行」とある。平成16(2004)年3月31日に平成16年産米醸造用玄米が告示されているのに(平成16年農林水産省告示 第845号「農産物規格規程の一部を改正する件」)、なんで2年も古いデータを使うかなぁ? 例によって調査不足が露呈している。ちなみに最新の一覧は有限会社エーアンドエーリサーチのサイトにある「平成16年産 産地品種銘柄(道府県別)」や本館サイトにある「酒造好適米の栽培状況(平成16年度)」で見ることができる。(官報でも確認できるが、過去2年分も併せて入手しないと一覧表形式にならない。)

 しかし、酒造好適米を100%使ったお酒はまだかなり少ないため、山田錦100%使用のお酒は限られたものになっています。ただ、五百万石は比較的多く使われています。  酒造好適米の中では一番多い使用量で、ほぼ半分の使用率。とはいえ、五百万石100%使用のお酒もまだ少ないものです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.18)

 平成16年度の酒造好適米の栽培状況は、農林水産省にある「平成16年産水稲の品種別作付状況(速報)」や本館サイトにある「酒造好適米の栽培状況(平成16年度)」で見ることができる。この3年間、作付面積で全酒造好適米の30%前後を推移している五百万石が「ほぼ半分の使用率」とはどういうこと? そもそも、この比率の分母は何? 例によって「根拠はあるのか? ソースを出せ」、と小一時間ほど‥‥ (笑)

 酒造好適米は、吟醸酒用として使われるのがほとんどで、各酒蔵ではその産地の農協から直接、また酒蔵間での取り引きなどによって入手しています。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.21)

 酒蔵好適米の標準かつ最大の流通ルートは以下の通り。各県の酒造組合が各酒造場から注文を取りまとめ、それを酒造組合中央会(酒造組合の全国組織)が全農(農協の全国組織)に依頼する。全農は各県の農協に割り振る形で農家が作る。つまり、各酒蔵が産地の農協から直接買い取ったり、酒蔵間の取引で入手する数量は全体の一部である。

 この「等級」というのは、下から三等、二等、一等、特等、特上の5段階になっていますが、これは「整粒歩合」によって決められているのです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.23)

 前回書いたとおり、蝶谷氏には、自ら紹介した参考文献や資料をまとも読まず、伝聞か思い込みで間違った引用をするという悪癖があるが、この文章もそれに該当する。米の等級(玄米の品位)には、「整粒歩合」だけでなく「容積重」「水分含有率」「被害米・死米・着色粒・もみ・異物等の混入率」という基準もあるのだが、そちらはすっかり忘れ去られている。現行の玄米の品位の検査規格は、本館サイトにある「酒造好適米について」を参照のこと。

 “幻の米を使った酒です”といわれると、消費者はつい食指が動くのですが、最近復活した米は質を問う前にどうも商売の臭いが強く感じられます。  亀の尾の他、いわゆる幻の米として扱われている「強力」や「神力」、「祝」などはもともともともと食料米で、酒造好適米に登録されたのはごく最近のことです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 pp.25-26)

 この件は既にこのブログの12月25日の記事にも書いたが、再度書かせていただく。ここに列挙された4種のうち、「亀の尾」「強力」「祝」の3種は、農産物検査法に基づく品種銘柄制度が発足した昭和27年に酒造好適米(農産物検査法に基づく農産物規格規定上の呼称は「醸造用玄米」)の指定を受け、農家から政府へ売り渡す際の価格に加算金が設定されている。これは官報に記載された事項でもある。「酒造好適米に登録されたのはごく最近のこと」は明白な間違いなのだ。特に「強力」は高精白を可能とする線状心白を持ち、これは他に「山田錦」「雄町」の2品種しか備えていない醸造適性であり、蝶谷氏の好きな「高レベルなお酒」造りを可能にする品種なのだが‥‥ 

 有機栽培というのは、一般的に農薬や化学肥料の使用を控える、あるいは使わずに有機肥料を利用して、安全で味の良い食品をつくることを指しています。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.27)

 この文章は「有機栽培米を使ったお酒は、健康にいいのでしょうか?」という問いに対する答えとして記述されており、蝶谷氏は平成12年4月1日より施行された、改正JAS法を知らないとみえる。改正JAS法では「有機」の表示に極めて厳格であり、蝶谷氏のこの理解は、現在では通用しない。改正JAS法による「有機栽培米」の要件については、お米の太田屋のサイトにある「JAS有機栽培米について」のページを参照のこと。

 もともと山田錦のようなお米は農薬などをそれほど必要としないお米で、痩せ地のほうが自分で生きようとして良く育つのです(もちろん、それなりの肥料や除草剤などは必要です。
  (中略)
 そこで、農家の方々は以前から、“最低限のことだけをして育てる”ということを心掛けていて、“いまさら有機を持ち出すまでもない”と思っているのです(ずっと以前から有機栽培と同じようなものです、ということ)。
(『うまい日本酒に会いたい!』 pp.28-29)

 はぁ、「それなりの肥料や除草剤などは必要」なのに「ずっと以前から有機栽培と同じようなものです」、ですか。50万円以下の罰金ですな(笑)

 以上、100問100答の最初の5問5答を占める「米」に関する部分だけで、この体たらくだ。あ、前回の記事『自称「日本酒ジャーナリスト」の知的不誠実』で取り上げた記述もこの部分にある。この先どうなるんだろう、このダラ本。だから私は今日も蝶谷氏の本を止められない。(スイマセン、最後は日垣隆氏のパクリです 笑)

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2005.01.06

自称「日本酒ジャーナリスト」の知的不誠実

 またまた、蝶谷初男氏の著書『うまい日本酒に会いたい! そのために知っておきたい100問100答』(ポプラ社、ISBN: 4-591-08389-6、2004年12月発行)の「トンデモ記述」を発見してしまった。4回連続してこの本に関する記事になるが、こういう輩がいるから健全な日本酒ジャーナリズムが育たないのだ、という憤りを込めてしばらく続けていくつもりだ。

 今回は「幻の酒米」として有名になった「亀の尾」に関する記述を槍玉に挙げてみたい。少々長いが、以下は『うまい日本酒に会いたい!』の記述からの引用である(太字は引用者による強調)。

 お酒造りをテーマにした漫画のヒットにより、「亀の尾」という米が話題を集めたことがあります。漫画そのものは非常に好感が持てるもので、モデルとなった酒蔵も亀の尾という米の復活に情熱を傾倒し、真摯に酒造りに取り組んだようです。結果、酒蔵とお酒の名前が広く知れ渡り、亀の尾を使ったお酒も順調に売り上げを伸ばしていきました。  その成功以降、昔使っていた米、埋もれている米を発見する動きに火が着いたのです。
(中略)
 なお、亀の尾は昭和9年12月発行の『清酒吟醸要訣 *』(日本醸造協会東北支部発行)という本に、「本末を顛倒したものと断言するに躊躇せぬ」とあるように、酒米としては否定されています。ただ、名誉のために補足しておきますが、決して悪いお米ではありません。コシヒカリやササニシキの先祖にあたるお米で、酒造好適米の五百万石は曾孫になります。  幻の米で仕込んだ酒を飲んだとき、その人が美味しいと満足すればそれでかまいませんが、昔の米の復活を売りにする行為には、不純な動機が見え隠れしている気がしてなりません

* 平成16年10月にこの本が完全復刻版として発売されました。菊姫ライブラリー・仙台税務監督局編『清酒吟醸要訣』(日本評論社刊)。石川県の酒造・菊姫が、自社ライブラリーの第一弾として制作したものです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 pp.24-26)

 その『清酒吟醸要訣』を入手したので、該当する部分を読んでみた。菊姫合資会社とは行き方の違う酒蔵については何でもナデ切りにする蝶谷氏のことだから、少々のことは私も驚かないつもりだったが、改めて蝶谷氏の厚顔無恥には恐れ入った。なんと『清酒吟醸要訣』にはこう書いてあるのだ。こちらは更に長いがご容赦を(原文は歴史的仮名遣い・正字体で書かれているが、現代仮名遣い・略字体・学習指導要領に準拠した送り仮名に修正して引用、太字は引用者による強調)。

 酒母、醪仕込において蒸米、麹米ともに吟味した優良米を選択しこれを用いることは最も好ましいことであるが蔵の事情、購入の関係によってともに同じ一種の優良米を用いることの出来ぬ場合が往々起こることがある。かくの如き場合二種類以上の特性の異なる米を用うるの止むを得ない時は、その特性を利用し適当に用うることは必要である。いま吟醸用として酒母を仕込む際には是非とも蒸米、麹米とも最優良なる米を用いねばならぬ。また吟醸醪にあっては麹米を第一とし掛米を第二として選定する要がある。たとえばここに吟醸用として備前の「雄町」と岩手県の「亀ノ尾」を購入した場合数量の関係上全部を同一品種で仕込むことの出来ぬときは酒母米としては「雄町」を用い醪には麹米だけでも「雄町」を掛米には「亀ノ尾」という風に主要なる点に最優良米をあて醪の掛米にはこれに次ぐものをあてるというが如きである。ある一部の人は備前米や播州米のようなものはあまりに軟質に過ぎ取り扱いにくく「亀ノ尾」を高度に精白したものは軟らかさも適度で容易に優良麹となし得られるから、これを酒母米、醪の麹米にむけ備前米の如き軟質米を掛米にした方が成績がよいと主張しまた実行する向きもあるが、これは恐らく真に備前米や播州米を取り扱うことの研究を積まない人の説で特性利用の方面より見て本末を転倒したものと断言するに躊躇せぬ
(『清酒吟醸要訣』 pp.54-55)

 この文章では、要するに、「雄町」と「亀の尾」を比較すれば「雄町」のほうが優良なので、この2種を併用する場合には「雄町」を酒母米・麹米にして「亀の尾」を掛米にするべきで、その逆を主張する人もいるがそれは「本末を転倒したものと断言するに躊躇せぬ」と言っているのだ。酒米としての「亀の尾」を否定した訳ではない。酒米としては「亀の尾」よりも「雄町」のほうが優れている、と書いてあるだけだ。どこをどう読んだら、蝶谷氏のような引用と記述ができるのだろう?

 蝶谷氏に算数(四則演算)能力が欠如しているのは旧著「決定版・日本酒がわかる本」で理解していたが、こんどは国語(文章読解)能力が欠如しているのか、あるいは、知的誠実さが欠如しているのか、いずれかにせよ売文業者として致命的な欠陥を露呈している。こんな体たらくで、よくもまぁ「日本酒と将棋のジャーナリスト」と自称しているものだ、と呆れてしまう。これではイエロージャーナリズムかブラックジャーナリズムの担い手に過ぎないではないか! 将棋の観戦記事のほうも大丈夫なのかしらん?

 さて、蝶谷氏は菊姫(資)が復刻した『清酒吟醸要訣』を紹介していながら、その本文をまとも読まずに伝聞か思い込みで、「亀の尾」を「酒米としては否定されています」と切り捨てている。ところが、当の『清酒吟醸要訣』には以下の引用部に見られるように、「亀の尾」を肯定した文章すらあるのだ。

 右の中酒造米として最も優れているものは岡山県産の雄町系統のものであって本邦酒造米中の第一位というても過言ではない。東北地方にても雄町系統に属する「亀ノ尾」種が最もよいのであって、中にも山形県の村山地方、庄内地方、秋田県の雄勝、平鹿両郡、青森県の津軽地方、福島県の会津地方、宮城県の栗原地方、岩手県の徳田地方に産するものは特に優良と認められている。
(『清酒吟醸要訣』 pp.49-50)
 (「亀の尾」は)東北地方産米中酒造用として最も優秀なるもので系統は「雄町」系に属し一般の酒造家では中吟醸用として賞用するものである。秋田、山形、福島、岩手、宮城、青森の各県にも相当作付せられているが、年々減少する傾向がある。何故であるかというにこの種類は土地に飽きやすくかつ病虫害に弱いため収穫量が少ないので農家ではあまり好まぬことに原因している。これは東北の酒造上由々しき大問題である。
(『清酒吟醸要訣』 p.55)

 とりあえず、蝶谷氏には『うまい日本酒に会いたい!』を廃刊にすることをお勧めする。そして、『清酒吟醸要訣』を完全に読破してから出直しておいで、と提言しておく。

 それにしても、蝶谷氏の筆法を借りれば、かくの如き不誠実な手法により「亀の尾」を攻撃する行為には「不純な動機が見え隠れしている気がしてなりません。」と言わざるを得ない。いったい何が彼をしてこうも妄言を書かしめるのか、小一時間ほど問い質したい気分だ。

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