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2005.02.20

「トンデモな」日本酒本の批判、第11回

 ようやく11回目の、蝶谷初男氏の著書『うまい日本酒に会いたい! そのために知っておきたい100問100答』(ポプラ社、ISBN: 4-591-08389-6、2004年12月発行)の「トンデモ記述」の摘発である。今回は100問100答のうち33問め~36問めの記述が対象で、テーマは「上槽から出荷管理」になる。

 例によって引用部は『うまい日本酒に会いたい!』の記述である。

 搾りを行う場所を上槽場といい、そこには醪自動圧搾機という搾り機が置かれています。(中略)こうした機械で搾るのは普通酒や本醸造酒、純米酒までで、吟醸酒は別の搾り方をします。  というのも、吟醸酒の醪は他のお酒に比べてまだ溶けていないお米が多く残っていて、醪を機械に入れると粕が詰まってしまい、とても搾ることはできないからです
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.117-118)

 「白露垂珠」「蓬莱泉」「東一」など、吟醸酒を醪自動圧搾機で搾っている蔵はかなりある。大吟醸酒クラスまでやっているところもある。たしかに「醪自動圧搾機で搾るのは、純米酒や本醸造酒まで」で吟醸酒は別の搾り方をする蔵が業界の多数派だが、「吟醸酒は醪自動圧搾機で搾ることはできない」は眉唾ものの記述だ。

 そこで、次に生酒を濾過します。  通常、「炭素濾過」という方法を採り、生酒の中に粉末状の活性炭を入れます。(中略)現場では「炭」と呼び、多くは“キロキロ”といって生酒1klにつき1kg入れ、不要成分を吸着させてしまうのです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.121)

 日本醸造協会から出ている書籍「日本酒用資材Q&A」には、「国税局鑑定官室が集計した火入れ前の活性炭の使用量を表4に示しましたが、メーカーによってかなり差があり、また国税局によっても相当異なっております。平均的には、西の方が多く、東の方は少ない傾向にありますが、メーカー間のバラツキは大きく、使用量は0から1500g/kl以上まで分散しております。」とある。また、その後に「現在の酒造りは、(中略)酒質にもよりますが、火入れ前の活性炭の使用量は西の方では100~200g/kl、東の方では50~150g/kl程度が適量と考えられます」とある(『日本酒用資材Q&A』 pp.112-113)。
 「キロキロ」は以前に流行った“淡麗辛口”タイプの酒をと批判する際に、「この酒はキロキロで濾過してるから‥‥」という具合に使われた言葉である。そのココロは「炭の使いすぎで味が削られすぎ」というものである。一般的な数量ではなく、むしろ「そこまでやったら使いすぎの部類」という数量を指して、人口に膾炙した言葉なのだが‥‥

 融米造りでは米を溶かしたあと搾ってしまいますが、その時、必要なタンパク質なども多少は粕として除去されてしまいます。その上で麹を入れるのですが、これでは麹を使う意味がないのです。規定上、麹を入れないと“清酒”とはいえなくなるからで、言い訳のためだけに使うということでしょう。(中略)融米造りは米がすべて糖化されたところから始まるのですから、実態はビールと同じ単行複醗酵といえるのではないかと思います。
(『うまい日本酒に会いたい!』 pp.124)

 融米造りを貶している人は多数いるが、その中には融米造りを開発した月桂冠が公開している技術情報をマトモに読んだ人はほとんどいないように見える。「亀の尾」を貶すために主旨を完全に捻じ曲げた引用を敢行した蝶谷氏も、おそらくそうだろう。

 月桂冠の杉並孝二氏の論文「新しい原料処理“融米造り”」(「最新 日本の酒米と酒造り」 pp.207-221)によれば「本方法の発酵形式には、従来法における三つのプロセスのうち、蒸米デンプンの溶解反応が違うのみで、糖化プロセスと液化プロセスは従来法と同じように同時に進行するので、清酒醸造の根本的な特徴である並行複発酵形式は何ら変わっていない。」とあり、同社の今安聡氏が日本醸造協会誌に寄稿された論文などと併せて読むと、蝶谷氏の説明は一知半解に過ぎないように見える。

 上記の論文によれば、融米造りでは、白米をミキサーにより粉砕し、液化装置内で液化酵素(α-アミラーゼ)を加えて高温(95~100℃)で液化する。この工程で、お米のデンプンは液化酵素により麦芽糖やデキストリンに分解される(液化)。このようにして液化したものを掛米として、仕込タンク内で麹と水と混合する。仕込タンク内では麹に含まれる糖化酵素(グルコアミラーゼ)により麦芽糖やデキストリンがブドウ糖に分解される(糖化)。実験段階では麹をまったく使用せず、糖化酵素もすべて酵素剤を利用した製造法も試してみたたが、さすがにこれは“清酒”としての風味が劣るため、糖化・醗酵プロセスでは麹を使用している。

 また、上記の論文とは別の情報によると、融米造りでの麹の使用割合は、少しづつ増加しているそうである。ここではお酒の香味を整えるためにも、麹が使われているのだ。麹には液化酵素・糖化酵素を供給するという役割の他、アミノ酸や脂肪を分解する酵素を供給するなどお酒の香味に関わる雑多な成分が含まれており、酵素剤により完全に代替することは不可能なのだ。このように、月桂冠の技術陣は融米造りの開発途上で麹の意義を再確認した上で、融米造りのプラント(“NFSプラント”)の本格稼動の当初から麹を使用している。決して、「言い訳のためだけ」に使っているのではない。

 小生は賞賛するよりも、批判する・貶す際のほうが、その対象を正確に把握した上で論述に遺漏がないか注意すべきだと考えている。しかし、蝶谷氏および多数の日本酒本の著者は、賞賛する場合でも批判する場合でも、印象や伝聞だけに頼った記述を行い、技術資料を参照したり対象者への確認を怠っている。粗悪な酒を槍玉に挙げるのと同程度に、自らの怠惰な態度を反省したほうがいいように思うのだが‥‥

 本館サイト: http://www.dd.iij4u.or.jp/~kshimz/  E-Mail: kshimz@dd.iij4u.or.jp

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