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2005.03.29

「トンデモな」日本酒本の批判、第18回

 はるばると18回目の、蝶谷初男氏の著書『うまい日本酒に会いたい! そのために知っておきたい100問100答』(ポプラ社、ISBN: 4-591-08389-6、2004年12月発行)の「トンデモ記述」の摘発である。今回は100問100答のうち74問め~77問めの記述が対象で、テーマは「日本酒のラベル記載事項(の後半部)」である。

 例によって引用部は『うまい日本酒に会いたい!』の記述である。

 吟醸酒のようなお酒の場合は2~3年貯蔵(古酒)が当たり前ですから、(貯蔵年数を)あえて表示するようなことはしないのが普通です。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.244)

 第10回でも同じことを指摘したが、この記述は、蝶谷氏お得意の「菊姫基準」だろう。「菊姫」には2~3年、あるいはそれ以上、蔵で貯蔵してから出荷される吟醸酒も多いが、業界全体で考えるとこれは少数派だ。ふつう、冬から春先にかけて作った吟醸酒は、その年の秋あるいは冬までに出荷される数量のほうが多い。

 「淡麗」とは酸味と糖分の両方がともに少ないことを指す ── いってみればエキス分が少なく、良くいえば綺麗、悪くいえば水みたいなものです。  「辛口」は、酸味が多く、糖分が少ないことを意味するわけですが、このふたつが一緒になった「淡麗辛口」をひとまとめでいうと、「酸味と糖分の両方がともに少なく、サッパリとしてキレがあるお酒」ということになります。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.248)

 アミノ酸とアルコールはどこにいった?(笑)
お酒の味は酸と糖分だけで決まる訳ではないのだが‥‥

 次々ページのグラフをご覧ください。(略)普通酒、本醸造酒、純米酒、吟醸酒は、それぞれグラフのような位置関係となります
(『うまい日本酒に会いたい!』 pp.250-251)
chart  そのグラフがこれだ。(クリックすれば、別ウィンドウで拡大表示されます)  これを見て、蝶谷氏が「純米酒だから良い酒とは限らないんだよ」「純米吟醸は世間でもてはやすほど高品質なお酒じゃないんだよ」、と“純米”に対してクドいばかりにアヤをつける理由がわかったような気がする。よほど酷い出来の純米酒ばかり飲んでいるのだろう。

 いまどき、日本酒度がマイナス20超で酸度が2.5超の純米酒って‥‥ 私は市販商品では見た事がない。低アルコール酒や「明治の酒の復刻酒」などの特殊な製品を除いた、現代のふつうの日本酒ではありえない数値だ。蝶谷氏が基準としている「菊姫」でも、このタイプの純米酒を市販している訳ではない。「菊姫」の山廃純米は、酸度はこの数値にかなり近いが、日本酒度はそこまで低くない。

 この数値は、明治時代か江戸時代の造りの酒質である。現代の感覚では醗酵が途中で止まってしまった酒、あるいは酸敗(腐造)しかかった酒であり、お酒としては限りなく異常値に近い。そんな純米酒が「ふつう」「一般的」だと認識していれば、そら、「純米酒なんかどこが旨いんだ!」といわんばかりの表現を繰り返すのも無理はないだろう。

 蝶谷氏には、まともな純米酒や純米吟醸を数多く飲んでから、日本酒の本を書くことをお勧めします(嘲笑)

 本館サイト: http://www.dd.iij4u.or.jp/~kshimz/  E-Mail: kshimz@dd.iij4u.or.jp

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2005.03.26

「トンデモな」日本酒本の批判、第17回

 どうにか17回目の、蝶谷初男氏の著書『うまい日本酒に会いたい! そのために知っておきたい100問100答』(ポプラ社、ISBN: 4-591-08389-6、2004年12月発行)の「トンデモ記述」の摘発である。今回は100問100答のうち70問め~73問めの記述が対象で、テーマは「日本酒のラベル記載事項(の中間部)」である。

 例によって引用部は『うまい日本酒に会いたい!』の記述である。

 お酒は並行複醗酵といって、麹によるお米のデンプンの糖化と、酵母による糖分のアルコール化という複数のことを並行して行う特殊な方法で醗酵させます
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.230)

 第10回でも同じことを指摘したが、また書かせていただく。並行複醗酵は支那の黄酒・朝鮮のマッカリ・東南アジア全域にある米酒-伝統的あるいはプリミティブ(原始的)な固体醗酵酒-に共通する醗酵メカニズムで、日本を含む東アジアでは決して特殊な方法ではない。むしろ当たり前の方法である。それとも、蝶谷氏は糖化剤として麦芽を使うビールやウィスキーが当たり前の欧米で育ったのか?

 なお、純米吟醸の場合はもう1~2度低いのが妥当のようです。米と米麹だけで吟醸酒と謳える高レベルのお酒を造るのは至難の業で、純米酒としての味とアルコール度数のバランスを考えると、(アルコール度数は)15~16度といったところが適当といわれているのです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.230)

 この記述の前半、「米と米麹だけで吟醸酒と謳える高レベルのお酒を造るのは至難の業」という認識も例によって「菊姫基準」であろうか。ちなみに、「菊姫」には純米吟醸・純米大吟醸の商品はない。吟醸という語句が含まれる商品には、すべてアルコールが添加されている。たしかに、吟醸香を追求すればアル添が有利である。しかし、お酒の評価は吟醸香だけで決まるものではない。「米と米麹だけで全国鑑評会で戦えるレベルのお酒を造るのは至難の業」であれば、誰からも異論は出ないと思うのだが‥‥
 後半の「15~16度といったところが適当といわれているのです」もよくわからん。出典を教えて欲しいものだ。県や国税局が主催する鑑評会には「純米の部」が設けられているところが多いが、入賞酒および出品酒はほとんど16度を超え、17度台のお酒も相当ある。「15~16度といったところが適当」と言い切る根拠はなんだろう。

 アミノ酸も“酸”という言葉がつきますから、広義には酸の仲間ということができます
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.235)

 平凡社世界大百科事典を参照すると、「化学的には,1分子中にカルボキシル基-COOH とアミノ基-NH2の両方をもつ有機化合物を総称してアミノ酸という。(中略)アミノ酸はカルボキシル基が酸,アミノ基が塩基の性質を示すので,両性電解質といわれる。(アミノ酸)」「酸と塩基の概念には幾多の歴史的な変遷があるが,基本的には水溶液中で水素イオンを増大させるものが酸で,水素イオンを減少させるものが塩基である,とすることができる。(酸・塩基)」とある。
 要するに、現代の化学では、アミノ酸は「両性」電解質で、酸の仲間とはしないのが定説なのだ。

 日本酒度というのは、お酒に含まれている「エキス分の量が、アルコールの量と比べて総体的(ママ)にどれぐらいあるか?」というもので、エキス分の量、つまり「濃度を比重で表示したもの(比重値)」なのです
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.239)

 前段の『エキス分の量が、アルコールの量と比べて相対的にどれぐらいあるか?』は日本酒度の概念をは正しく説明している。しかし、後段の『エキス分の量、つまり「濃度を比重で表示したもの(比重値)」なのです』は間違いである。前段から、日本酒度はエキス分が一定であればアルコール量に応じて変動し、アルコール分が一定であればエキス分に応じて変動することが理解できるハズだ。つまり、日本酒度を決めるファクター(要素)はエキス分とアルコール分である、然るに、後段の記述では、いつの間にやら日本酒度のファクターがエキス分だけになっている。これにつづく文章、

 そのお酒が濃いか薄いかという概念(イメージ)でとらえればわかりやすいでしょう。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.239)

 は大間違いだ。蝶谷氏ご本人も「前述した“濃いか薄いか”という表現はかなり乱暴なものですが」と注釈を入れているが、乱暴というよりは間違いだろう。「濃い=エキス分が多い」場合でも、アルコール度数が高ければ相対的に日本酒度は上がる(+側に振れる)し、「薄い=エキス分が少ない」場合でも、アルコール度数が少なければ相対的に日本酒度は下がる(-側に振れる)。日本酒度だけでは、お酒の濃い薄いを語ることは困難なハズだ。

 いずれにしても、日本酒度が「+」ということはエキス分よりもアルコール分のほうが多く、「-」ということはエキス分が多くアルコール分が少ないということで、決して甘辛のことではないのです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.240)

 日本酒度とはアルコールの濃度とエキスの濃度をある計算式でもって相対的に数値化したものであり、濃度(あるいは含有量)を絶対的に比較した数値ではない。市販されている日本酒であれば、日本酒度が「-」でも、エキス分よりもアルコール分のほうが多いものばかりだ。アルコールの濃度は低アルコール酒でも5%以上あるが、エキスの濃度が5%を超える清酒があったら教えてほしい。蝶谷氏は小学校の算数からやり直すべきだと思う。

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2005.03.20

寒梅いろいろ

前記事と同じく、某巨大掲示板に書いた記事をブログにも掲載。

日本酒造組合中央会のサイトで「寒梅」で銘柄検索を掛けてみた結果と、
特許庁の商標検索のサイトで同じく「寒梅」で検索を掛けてみた結果を
突き合わせて、「寒梅」リストを作成してみました.


並びは商標登録の出願の順です。

「寒梅」    1911年商標出願 埼玉県 寒梅酒造(株)    1821年創業
「越乃寒梅」  1968年商標出願 新潟県 石本酒造(株)    1907年創業
「宮寒梅」   1982年商標出願 宮城県 (名)寒梅酒造    1957年創業
「雪中寒梅」  1985年商標出願 岐阜県 古田酒造(資)    1877年創業
「夢の寒梅」  1988年商標出願 愛知県 鶴見酒造(株)    1873年創業
「宰府寒梅」  1988年商標出願 福岡県 鷹正宗(株)     1830年創業
「春雪寒梅」  1990年商標出願 愛知県 清洲桜醸造(株)   1853年創業
「蔵寒梅」   1992年商標出願 福島県 (資)喜多の華酒造場 1919年創業
「三重乃寒梅」 1992年商標出願 三重県 丸彦酒造(名)    1867年創業
「京乃寒梅」  1992年商標出願 京都府 キンシ正宗(株)   1781年創業
「媛寒梅」   1992年商標出願 愛媛県 岡酒造(名)     1716年創業
「富士乃寒梅」 1992年商標出願 大分県 藤居酒造(株)    1875年創業
「豊の寒梅」  1992年商標出願 大分県 藤居酒造(株)    1875年創業
「筑波寒梅」  1992年商標出願 茨城県 軽部正紀       1865年創業
「越前寒梅」  1993年商標出願 福井県 寿喜娘酒造(有)   1830年創業
「周防の寒梅」 1993年商標出願 山口県 琴泉酒造(株)    1837年創業
「雪月寒梅」  1993年商標出願 大分県 老松酒造(株)    1688年創業
「淡海の寒梅」 1994年商標出願 滋賀県 太田酒造(株)    1874年創業
「美濃乃寒梅」 1994年商標出願 岐阜県 武内(資)      1744年創業
「千代の寒梅」 1994年商標出願 奈良県 千代酒造(株)    1935年創業
「筑後の国寒梅」1994年商標出願 福岡県 鷹正宗(株)     1830年創業
「上州の寒梅」 1995年商標出願 群馬県 高井(株)      1729年創業
「香雪寒梅」  1995年商標出願 石川県 見砂酒造(株)    1867年創業
「鬼乃寒梅」  1995年商標出願 兵庫県 小西酒造(株)    1550年創業
「赤城の寒梅」 1996年商標出願 群馬県 森本酒造(株)    1693年創業
「榛名の寒梅」 1996年商標出願 群馬県 森本酒造(株)    1693年創業
「紅寒梅」   1996年商標出願 福島県 笹正宗(株)     1818年創業
「耶馬寒梅」  1996年商標出願 福岡県 比翼鶴酒造(株)   1897年創業
「伏見乃寒梅」 1996年商標出願 京都府 向島酒造(株)    1655年創業
「天領寒梅」  1997年商標出願 大分県 井上酒造(資)    1804年創業
「虹乃寒梅」  1998年商標出願 福岡県 福島酒造(株)    1928年創業
「雪路寒梅」  1999年商標出願 兵庫県 木戸酒造(名)    1772年創業
「月の寒梅」  1999年商標出願 奈良県 錦生酒造(名)    江戸末期創業
「古都乃寒梅」 2000年商標出願 京都府 向島酒造(株)    1655年創業
「越生寒梅」  2000年商標出願 埼玉県 (有)佐藤酒造店   1844年創業
「武蔵寒梅」  2000年商標出願 埼玉県 (有)佐藤酒造店   1844年創業
「しだれ寒梅」 2001年商標出願 埼玉県 (有)佐藤酒造店   1844年創業
「風雪寒梅」  商標出願なし  三重県 (株)ナカムラ    1955年創業
「五湖寒梅」  商標出願なし  福井県 若狭菊酒造(株)   1887年創業

‥‥ 実は商標登録の検索結果に、

・酒販店や問屋のPBの商標
・廃業して現存しない蔵が取得した商標

もありましたが、それは省略してあります。

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静岡県清酒鑑評会 審査結果

某巨大掲示板に書いた記事。備忘録を兼ねたブログにも転載しておきます。

平成17年 静岡県清酒鑑評会の結果

〇 吟醸酒の部

・県知事賞

  静ごころ(三和酒造)

・入賞酒(20蔵)

  杉錦(杉井佐智雄)
  出世城(浜松酒造)
  初亀(初亀醸造)
  千寿(千寿酒造)
  開運(土井酒造場)
  磯自慢(磯自慢酒造)
  白隠正宗(高嶋酒造)
  富士錦(富士錦酒造)
  君盃(君盃酒造)
  萩錦(萩錦酒造)
  喜久醉(青島酒造)
  英君(英君酒造)
  忠正(吉屋酒造)
  葵天下(山中酒造)
  花の舞(花の舞酒造)
  千代の峯(富士正酒造)
  満寿一(満寿一酒造)
  伊豆海(渡辺酒造)
  正雪(神沢川酒造場)
  小夜衣(森本酒造)


〇 純米酒の部

・県知事賞

  富士錦(富士錦酒造)

・入賞酒(18蔵)

  杉錦(杉井佐智雄)
  初亀(初亀醸造)
  英君(英君酒造)
  君盃(君盃酒造)
  高砂(富士高砂酒造)
  喜久醉(青島酒造)
  國香(國香酒造)
  正雪(神沢川酒造場)
  静ごころ(三和酒造)
  開運(土井酒造場)
  葵天下(山中酒造)
  坦庵(万大醸造)
  花の舞(花の舞酒造)
  磯自慢(磯自慢酒造)
  忠正(吉屋酒造)
  白糸(牧野酒造)
  出世城(浜松酒造)
  志太泉(志太泉酒造)


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2005.03.14

「トンデモな」日本酒本の批判、第16回

 もはや16回目の、蝶谷初男氏の著書『うまい日本酒に会いたい! そのために知っておきたい100問100答』(ポプラ社、ISBN: 4-591-08389-6、2004年12月発行)の「トンデモ記述」の摘発である。今回は100問100答のうち58問め~69問めの記述が対象で、テーマは「日本酒のラベル記載事項(の前半部)」である。

 例によって引用部は『うまい日本酒に会いたい!』の記述である。

 では早速、任意事項の表示基準について見てみましょう。
 これは、べつに表記しなくてもいいのですが、するなら次の約束を守ってくださいというルールで、(清酒の製法品質表示基準と清酒の製法品質表示基準取扱要領には)8項目ほど挙げられています

1 原料米の品種名 (詳細な記述は省略)
2 清酒の産地名 (詳細な記述は省略)
3 貯蔵年数 (詳細な記述は省略)
4 極上・優良・高級の文字の表示 (詳細な記述は省略)
5 受賞記述 (詳細な記述は省略)
6 手造り (詳細な記述は省略)
7 生一本 (詳細な記述は省略)
8 特別〇酒 (詳細な記述は省略)

 以上が任意記載事項の規定です。
(『うまい日本酒に会いたい!』 pp.197-198)

 国税庁のサイトにある、「清酒の製法品質表示基準」の概要 を参照すると、3 任意記載事項の表示以下の10項目となっている

 (1) 原料米の品種名
 (2) 清酒の産地名
 (3) 貯蔵年数
 (4) 原酒
 (5) 生酒
 (6) 生貯蔵酒
 (7) 生一本
 (8) 樽酒
 (9) 「極上」、「優良」、「高級」等品質が優れている印象を与える用語
 (10) 受賞の記述

蝶谷氏は、公開されている規定の丸写しすらできないのか‥‥

 級別制度時代にはほとんど二級、一級、特級の3段階しかなかったため、シンプルといえばシンプルで、造る方にとっても買う方にとってもわかりやすいものでした。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.199)

 この記述は事実調査を怠っていることの証左で、本来、ここに「ほとんど」は不要だ。級別制度時代の日本酒(清酒)は、二級、一級、特級だけである。

 では、次のページに主な杜氏の出身地を挙げましたのでご覧ください。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.206)

 p.207 の【主な杜氏出身地・名称・流派】を見ると、いまだに「志太杜氏」がある。平成8年に「満寿一」の大塚杜氏が引退して消滅したにもかかわらず、依然として「主な杜氏」として記載しているのはどういう理由だろう。前著からの単純コピーか?

 山廃の方法で育った酵母はひとつひとつが元気で、力強く、野生児のような逞しさを持っているため、多少の温度変化にはビクともしません
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.222)

速醸の方法で育った酵母でも「多少の温度変化にはビクともしません」という点では同じである。山廃により育った酵母が優れているのは、通常の醪ではありえない高温(30℃以上)での生存率とアルコール耐性であり、それゆえに醪の末期でも比較的醗酵が旺盛な点である。「ひとつひとつが元気で、力強く、野生児のような逞しさ」という表現もオーバーな比喩で、ここは最近の研究成果をもとに、「速醸よりも酵母の細胞膜のバリアー機能が強くなるため」などと書いたほうがいい。

 本来、醪日数というのは、当初の(酒質の)設計段階で決まっているもので、すべての工程はそれに沿って行われています。設計図に従えば吟醸醪は30~33日が普通であり、延びても35~36日が限度なのです(それ以下でもそれ以上でも、良い吟醸にはなりません)。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.224)

 ここでも、例によって「菊姫基準」が炸裂している。醪日数は醪の品温経過などに左右され、蔵の所在地の気候や使用酵母、原料米、麹の破精具合により設計図(B曲線・醪経過予定表)も変わる。西日本の暖地では30日に満たない設計もあるし、東北地方の寒冷地では40日近い設計もある。石川県鶴来町の気候、山田錦、比較的破精込んだ麹を前提とした「菊姫」の設計図が、どこの蔵でも絶対的に適合するわけではない。

 (粕歩合は)一般的には、普通酒で20~25%、本醸造酒で25~30%、純米酒で30~35%、吟醸酒で50~60%ぐらいが相場となっています。。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.228)

 国税庁鑑定官室が公表している「平成15酒造年度清酒製造状況等」によれば、全国平均は普通酒で21.4%、本醸造酒で27.3%、純米酒で26.5%、吟醸酒で37.2%となっている。低温発酵ではないため本来は特別本醸造とすべき製品でも、精米歩合さえ制限を満たせば吟醸酒として販売するメーカーも多数あり、吟醸酒において蝶谷氏の挙げた数値と全国平均が乖離していることは槍玉にはあげないでおく。
 しかし、純米酒と本醸造酒の粕歩合の全国平均はほぼ同程度であり、蝶谷氏の挙げた数値とは逆に、本醸造酒よりも純米酒のほうがやや少ないことに注意されたい。これは純米酒の精米歩合制限がなくされるより前の、平成13・14酒造年度でも同じである。蝶谷氏の書く「相場」とは、いったい何が根拠なのだろうか。

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2005.03.10

「トンデモな」日本酒本の批判、第15回

 延々15回目の、蝶谷初男氏の著書『うまい日本酒に会いたい! そのために知っておきたい100問100答』(ポプラ社、ISBN: 4-591-08389-6、2004年12月発行)の「トンデモ記述」の摘発である。今回は100問100答のうち51問め~57問めの記述が対象で、テーマは「にごり酒」「樽酒」「雫酒」「貴醸酒」「発泡酒」「低アルコール酒」「あらばしり」になる。

 例によって引用部は『うまい日本酒に会いたい!』の記述である。

 杉の香りがそこはかとなく漂う樽酒には、まるで森林浴のように気分を落ち着かせるものがあり、爽やかさが感じられます。ただ、これも普通酒や本醸造酒に限るでしょう。吟醸酒や純米酒に木香があると、そのお酒本来の味を邪魔することになってしまいますから‥‥
(『うまい日本酒に会いたい!』 pp.175-176)

 吟醸酒についてはその通りだが、本醸造よりも香りが重くなりがちな純米酒のほうが、むしろ木香がよく似合う。現在、google で「純米 樽酒」をキーワードにして検索を掛けてみると、多くの蔵の製品がヒットする。その筆頭は、昭和40年代から「純米+樽詰」を生き残りのための個性にしてきた「住吉」「樽平」だろう。

 (槽による搾りは)こうして1日から1日半ほどすると搾りが終わるのですが、これは吟醸酒のように粕の割合が多いお酒、つまりお米をあまり溶かさず、お米の粒がまだたくさん残っているお酒に用います。機械で搾った場合、目詰まりを起こして搾れなくなってしまうからです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.177)

 第11回にも書いたが、吟醸酒を醪自動圧搾機で搾っている蔵はかなりある。大吟醸酒クラスまでやっているところもある。たしかに、醪自動圧搾機で搾るのは純米酒や本醸造酒まで・吟醸酒は槽や袋吊りで搾る、という蔵が業界の多数派だが、「機械で搾った場合、目詰まりを起こして搾れなくなってしまう」は現在では一般的ではない。

 まず小さなタンクを用意して、そこに竿を渡すことから始めます。その竿にお酒の入った袋を2個1セットにして縛り、ハの字型に吊るしていきます。こうしてお酒が自然に垂れて出てくるようにするわけですが、この方法を「首吊り」とか「袋吊り」と呼んでいます。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.178)

 この記述もまた、蝶谷氏お得意の「菊姫基準」である。「袋吊り」を行っているすべての酒造場で「お酒の入った袋を2個1セットにして縛り、ハの字型に吊るし」ている訳ではない、一袋づつ、フックに掛けたり竿に結わえる方法を採用している蔵もある。

 (袋吊りの)メリットは、圧力をかけずに搾るために純度が高く、上品でコクのあるお酒となる(そうしたお酒が得られる割合が高くなる)ことです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.178)

 袋吊りの酒が「上品で」「純度が高い」のは間違いないが、「コクのある」はどうだろうか。袋吊りは槽搾りと比べると「綺麗で雑味のない研ぎ澄まされた味」になりがちで、相対的にコクは弱くなる。同じ醪なら、昔ながらの槽で搾ったほうがコクはある

 もともと、貴醸酒は国税庁の開発で、酒類総合研究所が特許を持っているものです。現在、貴醸酒協会が組織され、いくつかの蔵が参加してその開発を行っています。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.180)

 もともと、貴醸酒は国税庁醸造試験所(現・酒類総合研究所)の佐藤信の開発で、国税庁が特許を持っていたものである。特許の公開が昭和50年であるため、すでに特許権の存続期間(20年)は終了している。この製造法は、「延喜式」に記された、平安時代の御酒(ごしゅ)の製法を応用したものである。

 お酒では発泡性を有したもの、つまり中に炭酸ガスを含んでいるお酒全般を「発泡酒」と呼んでいます。最近は「活性」と表記してあるものもあります。
 比較的アルコール分の少ないお酒に炭酸ガスを溶かし込んだもので、純米酒の原酒(水で割っていないもの)、そして炭素濾過をしていないものが多いでしょう。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.184)

 蝶谷氏にしては珍しく、「菊姫」以外の蔵元を基準にした表記だ。ちょっと驚いた‥‥ って、「菊姫」は発泡清酒を出してないから仕方ないのか(笑) この記述はたぶん、酒ライスパワー研究会(旧:コンポ・バムバム)の開発した「純米・低アルコール日本酒」のうち「発泡タイプの商品」か、あるいは醸造研究所が開発した「低アルコール発泡清酒」を指している。これらの代表格は一ノ蔵の「すず音」だ。
 しかし、「日本酒の発泡酒」はこれだけではない。従来と同様の高濃度(アルコール分 15度以上)の「美丈夫 うすにごり」「刈穂 六舟」などの発泡酒も、多数市販されている。こちらの方が古くからある、もともとの発泡清酒である。その存在をまったく忘れているというか気がついていないのが、「自称・日本酒評論家」の蝶谷氏なのである。

 しかし、市販されている低アルコール酒はほとんど純米酒ですが、その酒質にはやはり多少ムリがあるような気がしています。つまり、旨味の点で物足りなく感じるのです。それば、仕込んでいるときに大量の水を入れて醗酵を調整するか、あるいは醗酵を途中でストップさせて造るからだと思うのですが、それで味がのってくるとはとても思えないのです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.186)

 低アルコール酒の官能評価に関する記述はサテオキ、その理由の推察はすべて想像から成っている。妄想と言ってもよい(笑)。低アルコール酒を製造している蔵元や酒ライスパワー研究会に確認するか、あるいは、「清酒 低アルコール」をキーワードにして、特許広報くらい調べてみるべきだろう。蝶谷さん。それがプロの物書きのあるべき姿だろう。インターネットでは、数年前から無料で特許広報の検索ができるというのに、この手抜きは何なのだろう‥‥
 検索すれば、醸造試験所や大手酒造会社の開発した、低アルコール清酒の製造法が数件みつかり、蝶谷氏の推測が的外れである(厳密に書けば、かなり古い時代の知識に凝り固まっていて、最新の製造技術を把握していない)ことがわかるだろう。

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2005.03.03

「トンデモな」日本酒本の批判、第14回

 気がつけば14回目の、蝶谷初男氏の著書『うまい日本酒に会いたい! そのために知っておきたい100問100答』(ポプラ社、ISBN: 4-591-08389-6、2004年12月発行)の「トンデモ記述」の摘発である。今回は100問100答のうち43問め~50問めの記述が対象で、テーマは「生酒」「生詰酒」「生貯蔵酒」「冷酒」「原酒」「古酒」「新酒」「秘蔵酒」である。このあたりでは滅茶苦茶な記述は減っており、あまり面白くはない(笑)

 例によって引用部は『うまい日本酒に会いたい!』の記述である。

 加熱殺菌のことを、現場では「火入れ」とか「火当て」といいます。目的は酵素や酵母を死滅させ、活動を停止させて腐敗を防止することが第一義
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.149)

 日本酒を腐敗させる元凶といえば、第一に火落菌(および火落性乳酸菌)を挙げるべきだが、言及されていないのはなぜ?

 ただ、生酒は火入れをしていないわけですから酵素などが生きて活動しています。そのため腐敗する可能性が高く、非常に怖い酒といえるのです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.149)

 残存酵素により酒質が変わることはあっても、現場ではそれを「腐敗」とは言わない。繰り返しになるが、日本酒を腐敗させる元凶は火落菌(および火落性乳酸菌)なのだが、日本酒評論家を自称する蝶谷氏は、なぜ火落菌には言及しないのだろうか。

 原酒というのはこの割水を一切していないお酒のこと指します(ママ)。水で割っていない原々のお酒、つまり、醪ができた時点のアルコール度数のまま瓶詰めしたという意味なのです。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.161)

 重箱の隅をつつくようだが、「清酒の製法品質表示基準を定める件」(国税庁告示)によれば、「原酒の用語は、製成後、加水調整(アルコール分1%未満の範囲内の加水調整を除く。)をしない清酒である場合に表示できるものとする。」である。酒税はアルコール度数に応じて1度刻みで変わるが、酒造場で 17.9% で出荷し酒税を納付したものが、流通段階での抜き取り検査で18.0% であると検定された場合に酒税法違反となるため、そういった事態を防ぐために()内の例外規定がある。
 つまり、蝶谷氏の書く「割水を一切していないお酒」は厳密には正しくない。「原則として割水をしていないお酒」といった表現であれば問題ないのだが‥‥

 ちなみに、吟醸酒はもともと割水を一切しないお酒です。しかし、原酒とは表示しないのが一般的です。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.161)

 たしかに、吟醸酒の原型である鑑評会出品酒は割水をしない。しかし、市販の“吟醸酒”には割水してアルコール度数を下げたものも多く存在する。また、吟醸酒は原酒であっても原酒と表示しないのが一般的だった(過去形)という指摘については小生も同意するが、最近の“無ろ過生原酒”ブームの影響か、大吟醸にまで「原酒」「生原酒」の表示があるものを目にするようになってきた。

 普通酒や本醸造酒、純米酒などは6月前までに造り、その夏を越させてから出荷する場合が多いもの。しかし、吟醸酒は2~3年寝かせてから出荷するのが普通ですから、2年古酒、あるいは3年古酒が当たり前となっています。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.163)

 出た! (笑) これもまた、蝶谷氏お得意の「菊姫基準」だろう。「菊姫」には2~3年寝かせてから出荷される吟醸酒商品も多いが、業界全体で考えると普通酒などと同じく「6月前までに造り、その夏を越させてから出荷する」数量のほうが多いのは間違いない。

 秘蔵酒というのは、単に「5年以上、貯蔵~熟成させた酒」のことを指しているだけなのです(現在はこの表示基準が解除されているはずですが‥‥ルールはしょっちゅう変わります)。
(『うまい日本酒に会いたい!』 p.169)

 「秘蔵酒」は「西の関」を醸す大分県の萱島酒造の登録商標である。もともとは吟醸酒を2・3年貯蔵した古酒に冠せられた称号で、昭和38年の発売であった。しかるに、昭和50年になって日本酒造組合中央会が「秘蔵酒・秘蔵の文字を用いることのできるのは、貯蔵期間が5年以上を経過した清酒に限る」というルールを定めた。萱島酒造は陳情書を提出し、昭和56年にこのルールは廃止された。現在でも「秘蔵酒」は萱島酒造の登録商標であるが、他の酒造場の製品で、吟醸酒でもないのに「秘蔵酒」と銘打った商品はかなりある‥‥
 小生のような部外者から見て、本件(知的財産権あるいは言葉の軽視)は日本酒業界の体質的な問題だと思うのだが、これらの経緯を正確に理解し、問題点やあるべき姿を世に問う日本酒ジャーナリストは、蝶谷氏も含めて皆無だ。問題提起しているのは、「市井の吟醸酒ファン」を自認する篠田次郎先生ただ一人である‥‥

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