前近代な隣国との付き合い方
近代刑法にはいくつかの基本精神がある。刑の執行や刑期の終了により刑(罪)は消滅する、とか「罪は九族に及ぶ」という連帯責任制を取ってはいけない、といったものである。同様に、反体制思想を持つことだけで刑を課してはいけない、とか、刑期中に思想教育や思想改造を行ってはいけない、といった「思想・良心の自由」もまた、現代の法治国家なら当然の原則だ。
ところが、この「常識」が通用しない国がある。困ったことに、中共や北朝鮮といった日本の隣国である。北朝鮮では、親の因果が子に報い~♪式に、政治犯の責任を、共犯者ですらない子供や親類縁者にまで帰すことが、いまだに行われている。日本の統治に協力した者、朝鮮労働党の一党独裁に反対した者、金日成・正日父子の国家私物化に反対した者の親類縁者は「敵対階層」として公民権が制限されている。法制度においては、前近代というより封建的である。ついでに、韓国も昨年成立した「日帝強占下・反民族行為真相究明に関する特別法(通称:対日協力者糾弾法案)」の内情を見ると、法意識が北朝鮮な方向に退化しているような気がする。
それはサテオキ、中共(中華人民共和国)である。この国においては政治犯に対する刑罰といえば思想改造が伴っている。罪状を否認し、思想改造を受け入れない者は、半永久的に拘禁される(たまに外国の圧力を受けて国外追放される者もあるが、よほどの大物に限られる)。赦免されるのは、転向して共産党政権に忠誠を誓う場合だけである。これは第二次世界大戦後の日本人戦犯に対しても適用されている(山西・大原収容所に拘禁された戦犯容疑者の扱いを詳述した「あやしい調査団・満洲どよよん紀行・7」「同・8」を参照されたい)。つまり、戦犯の赦免の条件として「中国共産党と中国人民は絶対です。我々は決して中国共産党と中国人民の言うことには逆らいません」という姿勢、思考法が心底徹底されることが要求されたのである。
そして同じ要求が、個々の戦犯だけでなく国家としての日本にも要求されている。中共が靖國参拝などを取り上げて「歴史を正しく認識し、対処する為に反省を実際の行動にうつして欲しい」(2005年4月23日にジャカルタで行われた日中首脳会談における胡錦濤中国国家主席の発言、外務省の公式記録より)というのは、表現を変えれば「戦争に負けた日本が赦されるのは、中共の国益にかなう行動をとることによってのみである」というメッセージなのだ。そう考えると、産経新聞が5月30日に報じた、自民党の中川国対委員長や与謝野馨政調会長が「A級戦犯分祀を期待」とか「首相が私人として参拝することで、中国側の理解を得たい」というのは本末転倒だと感じる。
現時点で日中間には、台湾島の潜在主権、日中境界線(排他的経済水域)、尖閣諸島の領有権といった懸案事項がある。たぶん、中川氏や与謝野氏の発想は、これらの交渉を円滑に進め、ついでに日本が国連の常任理事国入りすることに反対しないでもらうため、まずは靖國問題で譲歩しておいたほうがいい、というものだろう。しかし、それはメッセージの間違った理解である。中共は台湾島の潜在主権、日中境界線(排他的経済水域)、尖閣諸島の領有権といった懸案事項で日本が譲歩しない限り、歴史認識問題を持ち出すことを絶対に止めない。靖國で引っ込んだところで、次は南京大虐殺、三光作戦、盧溝橋事件、満州事変などなど、彼らは虚実とりまぜて日本を道義的に非難するネタには困らないのだ。どこまで引っ込んでも、キリがないと思う。逆の言い方をすれば、台湾島の潜在主権、日中境界線(排他的経済水域)、尖閣諸島の領有権といった現在の懸案事項で日本が中共の言いなりになれば、そしてさらに、未来永劫、中共の国益を満たしさえすれば、日本側の靖國参拝をはじめとする歴史認識の問題は不問に附されるだろう。これは断言できる。
まとめてみよう。中共が“赦す”日本は、中共に忠誠を誓う日本だけである。それ以外の日本は、半永久的に赦免されず、戦争犯罪者のままである。かの国にとって、「反省を実際の行動にうつす」とは、歴史認識を改めることよりむしろ、「目の前の国益を差し出すこと」を意味するのだ。
わが国の政治家や外交官には、その点を考えて行動して欲しいと思う。
[5/31 補記]
対中ヲチなサイト「日々是チナヲチ。」の5月30日の記事 の末尾に、同じような分析が出ていた。
「A級戦犯分祀と日本の常任理事国入りセットで一件落着」なんて声が自民党の幹部クラスから出ているようですけど、そんな甘いことを言っていたら痛い目に遭いそうで不安です。
なんだか嬉しい(ぢつはミーハー 笑)
本館サイト: http://www.dd.iij4u.or.jp/~kshimz/ E-Mail: kshimz@dd.iij4u.or.jp
| 固定リンク | コメント (4) | トラックバック (0)
最近のコメント