法治国家における農薬規制のありかた
「日本国内では成長ホルモンは使えず、使えば罰せられます。」という記述を引用して、「国内ではポストハーベスト農薬の使用が原則的に禁止されているのに、何故輸入は許されるのでしょうか。」とブログで書いている人がいる。このブログにトラックバックまでいただいたので(次の記事で表明する考えに基づいてサクっと消去したが)、そのギモンに答えてみたいと思う。
実際はといえば、「日本は長く、残留してはならない農薬だけを一覧表にするネガティブ制を採っており、この方式では残留基準が設定されていない農薬については、いくら残留があっても規制できないことが問題となっていた。」(斎藤くんの残留農薬分析●ポジティブリスト制に吹いた“神風” より引用)のである。
つまり、日本ではホルモン剤やポストハーベスト農薬の「すべて」を網羅して禁止することは行われていなかった。詳しくは上のリンク先の文章を参照してほしいが、それに付け加えるとすれば、国内では行政指導という法によらない規制が行なわれ、また、農協という独占的流通機構が取り扱わないホルモン剤や農薬も量的には普及しなかった。役所に睨まれ、農協に邪険にされることさえ覚悟すれば、生長ホルモンやポストハーベスト農薬を合法的に使う方法はいくらでもある。
しかし、こういった日本型の公的あるいは自主的な規制は、外国(外国産農作物)に対しては無力だ。建前上、日本は法治国家なので、法によらない規制を強制することはできない。国際的には、英米流の「明示的に禁止されていなければ、それは問題ない」という規範が適用されるから、日本のお役所には勝ち目はない。
さて、冒頭で引用したブログの文章はこう続く。「国民の命を守るより、アメリカの顔色をうかがっているのが実情です。当然国産作物の農薬も野放しは止めてチェックが必要です。」 うぅむ、このところ農薬で世間をにぎわしているのはアメリカだけではない。かの農薬大国、中共を忘れてはいけないし、先のWTOの包括交渉(ドーハ・ラウンド)における途上国中の農作物輸出国の発言力向上もまた見逃せない。まずは正確な事実関係を把握した上での論評を望みたい。
ところで、日本でもようやく、農薬の残留した食品の流通を原則として禁止し、残留を認めるものについては残留基準を一覧にして示す「ポジティブリスト制」に移行しようとしている(2006年5月に施行される予定)。ポジティブリスト制にも問題は山積みだが、これに移行されれば、従来の農薬規制の抜け穴が小さくなるのは確実だろう。ついでに、役所の既得権の縮小、ひいては不透明な裁量行政の縮小にも繋がると思う。検査機関の職責および業務負荷は重くなるだろうが、なんとか頑張ってほしい。
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