「増醸酒」の研究(その1)
平成18年5月1日の 酒税法 改正 により、三倍増醸酒は清酒とは見なされなくなり、法的には「増醸酒」というカテゴリ(定義)も消えたことになっている。しかし、世間一般でいうところの「いわゆる増醸酒」は、「法令上の増醸酒」とは微妙に異なる。まずは世間で通用している概念のほうを最大公約数的に定義しておこう。
いわゆる増醸酒
米・米こうじの他に、原料用アルコール(醸造アルコール)、糖類、酸類、調味料などを原料とする清酒。
次に、平成18年5月1日の酒税法の改正により廃止された、「法令上の増醸酒」はどんなものであったか確認しておこう。
法令上の増醸酒
米・米こうじの他に、澱粉、原料用アルコール(醸造アルコール)、ぶどう糖、水あめ、コハク酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、グルタミン酸ナトリウム、清酒を原料とする清酒。ただし、澱粉、原料用アルコール等の合計使用重量は、こうじ米を含む米の重量を超えない。また、原料用アルコールの数量は、各仕込みに使用する白米1,000kgにつき2,400リットル(アルコール分30%換算、純アルコールに換算すれば 720リットル)である。
このレシピによれば、同じ量の米・米こうじから生成される酒の量が、米・米こうじ以外の原料を使わずに製造する場合の約3倍に増えるので、「三倍増醸酒」略して「三増酒」という通称が生まれたのである。なお、米・米こうじ以外の原料を、「副原料」と呼ぶことがあり、この記事でもそれを踏襲する。
では、国税庁鑑定企画官室が作成した、「平成16酒造年度における清酒の製造状況等について(本文 ・図表)」に沿って、法改正前の増醸酒のデータを精査してみよう。
まず、平成16酒造年度に増醸酒を製造した酒造場は 554場あり、これは稼動中の全酒造場(1,424場)の約39%を占める。そして、白米1t(1,000kg)あたりの副原料の使用量(全国平均)は、それぞれ
純アルコール 719.6 リットル ⇒ 618.2kg(重量換算)
ぶどう糖 43.6kg
水あめ 301.4kg
乳酸 1.4kg
こはく酸 1.4kg
くえん酸 0.16kg
りんご酸 0.20kg
グルタミン酸ソーダ 0.02kg
となっている。合計して 966.38kg となり、旧酒税法の「澱粉、原料用アルコール等の合計使用重量は、こうじ米を含む米の重量を超えない」を守っている。監督官庁の公表する統計だから、当たり前といえば当たり前なのだが。
最終的に製造された増醸酒は、実数 79,259キロリットル、うち純アルコールが 18,145キロリットル、このうち添加された原料用アルコールが 11,757キロリットルであるから、米・米こうじの醗酵により生成された純アルコールは 6,388キロリットルとなる。増醸比率を計算すると
18,145 ÷ 6,388 ≒ 2.84
となる。平成16酒造年度の増醸酒は、全国平均で 2.84倍増醸酒であった、といえる。(その2へ続く)
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